十二指腸潰瘍について
潰瘍は皮膚や粘膜が深く傷付いている状態です。十二指腸潰瘍では炎症による損傷が粘膜層の下にある粘膜下層に達している状態であり、消化性潰瘍と呼ばれています。潰瘍が血管を傷付けると出血を起こし、吐血や黒いタール便、貧血症状(めまい、動悸、息苦しさなど)を起こします。重症化した場合には胃壁や十二指腸壁に穴が開く穿孔を起こし、一刻も早く適切な治療を受けないと命に関わることもあります。特に十二指腸壁は薄く、注意が必要です。
症状
主な症状には、みぞおち周辺の痛み(心窩部痛)があり、空腹時に生じやすい傾向があります。胸やけ、吐き気・嘔吐も多い症状であり、潰瘍が血管を傷付けた場合には他の症状がなく、吐血や黒いタール便、貧血症状(めまい・息切れ・動悸など)を突然起こすこともあります。
原因
胃には、強力な酸性の胃酸と消化酵素が混ざった胃液があり、食物を溶かして消化しやすくし、口から入った細菌の殺菌、ウイルスの不活化を行っています。胃粘膜は保護と修復の役割を持った粘液で守られており、通常であれば胃液で溶かされることはありません。ただし、こうした保護・修復のバランスが崩れると胃粘膜は炎症を起こし、悪化して深く抉れるように傷付いて潰瘍を生じます。
保護・修復のバランスを乱す最も頻度の高い原因となっているのは、ヘリコバクター・ピロリ菌による感染であり、胃・十二指腸潰瘍全体の50%以上を占めていると指摘されています。ピロリ菌は経口感染し、周囲の尿素を強アルカリのアンモニアに変えて中和することで強酸性の胃液に満ちた胃粘膜に住みつきます。ピロリ菌が産生するアンモニアなどの毒素によって胃粘膜の慢性的な炎症が起き、慢性胃炎や萎縮性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が生じ、胃がん発症にも大きく関与するとされています。ピロリ菌による炎症や潰瘍は再発しやすいのですが、除菌治療を成功させることで再発率を大幅に下げることができます。
ピロリ菌の次に多い原因として、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の副作用があります。この薬には、胃壁を守るプロスタグランジンという生理活性物質の合成を抑制する作用を持っており、副作用として胃や十二指腸の粘膜に炎症や潰瘍を生じることがあります。幅広い疾患の鎮痛薬として処方されている他に、市販薬にも含まれているものがあり、注意が必要です。
検査・診断
問診で、症状の内容、はじまった時期と経過、基礎疾患や服用している薬などについて伺います。
潰瘍が疑われる場合には胃カメラ検査を行って、病変の有無や状態を詳細に確かめた上で確定診断します。ピロリ菌感染の疑いがある場合には、ピロリ菌感染検査を行います。潰瘍を認めた場合、がんなど悪性所見が含まれる可能性があるため、組織を採取して病理検査(生検検査)を施行することがあります。なお、出血を認めていたり、穿孔の可能性がある場合には近隣の高度医療機関へ救急搬送します。(当院の胃カメラ検査は、専門医が麻酔(鎮静剤)を用いて質の高い内視鏡検査を行っております。)
治療
現在、ほとんどの十二指腸潰瘍は薬物療法によって完治が期待できます。処方されるのは、主にボノプラザンなどのプロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーといった胃酸分泌抑制薬であり、必要に応じて胃粘膜を修復する薬も使われます。
ピロリ菌感染陽性の場合には、薬物療法で状態がある程度改善してから除菌治療を行います。除菌治療に成功することで再発の可能性が大幅に下がります。
太い血管が傷付いている場合や消化管穿孔を起こす可能性がある場合には近隣の高度医療機関へ救急搬送します。
なお、潰瘍は良性と胃がんによる悪性潰瘍がありますので、採取した組織の病理検査を行います。悪性の場合には手術が必要になりますので、ご希望の総合病院か連携している高度医療機関へのご紹介を行っています。