肝炎(B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎)

B型肝炎

B型肝炎ウイルス(HBV)が入った血液及び体液などを介して、感染・発症する疾患です。
B型肝炎ウイルスは、感染時期や感染したB型肝炎ウイルスの遺伝子型(ジェノタイプ)、その時の健康状態によって「一過性感染(短期間でウイルスが除去される)」と持続感染(感染が長期間持続するタイプ)」に分かれます。
生まれた時または3歳未満の時期に、ジェノタイプAのB型肝炎ウイルスに感染すると、持続感染になりやすいとされています。

垂直感染 B型肝炎に感染している母体からの感染(出産時・妊娠中)
水平感染
  • 性行為などによる体液接触
  • 消毒が不十分な器具を用いた医療行為
  • タトゥーやピアスの穴あけ
  • 薬物乱用で使った注射針を介した血液感染
  • 出血を伴う、不適切な民間療法

症状

B型急性肝炎

発症すると、全身がだるくなる、食欲不振、吐き気、嘔吐、黄疸(おうだん)、褐色の尿が出るといった症状が現れます。
潜伏期間は1~6ヶ月です。
ほとんどの場合は数週間で治りますが、症状が極めて激しくなり、肝不全を引き起こすケースもあります。

B型慢性肝炎

出産時に持続感染になった場合、肝炎は発症しません。
しかし感染したHBVは体外へ排出されず体内に残り「無症候性キャリア」の状態になってしまいます。
思春期以降に免疫力がつくと、20%程度の患者様に肝炎が起こり、慢性的に感染が続いてしまいます。
治療を受けずにいると、肝硬変や肝がんへ移行する恐れもあります。
慢性肝炎は発症しても自覚症状に乏しいので、肝硬変や肝がんを引き起こしてから発見される方も少なくありません。

検査

血液検査(肝機能検査)や超音波検査、フィブロスキャン、肝生検などを行います。

肝機能検査

ALT(GPT)やAST(GOT)、γGTP、ビリルビンなどの数値を調べます。
悪化すると肝臓が硬くなる(線維化する)ので、血中のヒアルロン酸や4型コラーゲン、M2BPGiなどの数値を調べ肝臓の繊維化を把握することもあります。
また腫瘍マーカーであるAFP・PIVKA-Ⅱを調べることもあります。 様々な数値を確かめてから、総合的に肝機能について診断します。

抗原・抗体検査
HBs抗原 HBVに感染しているかどうかを判定する項目です。陽性だった場合、HBVに感染していると診断されます。
HBs抗体 過去にB型肝炎ウイルスに感染したが、その後治癒された場合は陽性となります。またB型肝炎ワクチンで、免疫を獲得した場合でも陽性になります。
HBe抗原 肝臓内でウイルスがさかんに増殖していると陽性になります。感染力の強さがわかります。
HBe抗体 HBe抗原が少ないと陰性になります。感染力の弱さがわかります。
HBc抗体 急性肝炎の診断や、キャリアの判断などで用いられる項目です。
HBV-DNA測定 B型肝炎ウイルスのDNA自体を調べます。感染していると陽性反応が出ます。
画像検査(超音波検査(エコー)、CT、MRIなど)

腹部超音波検査などの検査を通して、肝臓の状態をチェックします。
急性肝炎・慢性肝炎のどちらにも有効とされており、診断にも経過観察にも行われます。
B型肝炎があると肝がんになるリスクが増加します。画像検査で肝がんが発生していないかを定期的にチェックすることが重要です。
超音波検査(エコー)は簡便ですが、見逃しのリスクも有るため、CTやMRIなどの検査を組み合わせて施行することがあります。

肝生検

肝臓の組織を採り、顕微鏡で調べる検査です。肝炎の状態を細かく調べたり、炎症や線維化の度合いを確かめたりすることができます。慢性肝炎や肝硬変のある患者様に対して行われる検査です。
ほとんどの場合、超音波を用いて針で採取するという方法で行われていますが、稀に腹腔鏡を使うこともあります。
「肝臓の状態が細かく見れる」というメリットがある一方「患者様への負担が大きく、入院が必要になる」というデメリットもあります。
また、病状がかなり進行していると実施できない可能性が高いです。入院が必要となりますので、紹介させていただきます。

エラストグラフィについて

B型肝炎による慢性の炎症が進み肝硬変になりはじめると、肝臓が徐々に固くなってきます。エラストグラフィ検査は肝臓の繊維化の度合い(どれくらい硬いのか)がスムーズに測定できる検査です。
腹部超音波検査(エコー)と同じように、外来で受けられます。
繊維化の度合いをより正確に調べられるのは肝生検の方ですが、圧倒的に負担が少なく検査を受けることができます。当院で採用している、ARIETTA 65LE LV は、肝線維化の評価を行うことができます。
肝硬度/肝線維化を推定するShear Wave Measurement(SWM)とReal-time Tissue Elastography(RTE)の2つの方式のエラストグラフィが搭載されて慢性肝炎から肝硬変まで肝線維化について評価することができます。

治療

B型急性肝炎

まずは安静と対症療法が必要です。劇症化し劇症肝炎になると命にかかわるため入院し、抗ウイルス療法や血液浄化療法や血漿(けっしょう)交換などの治療を選択することもあります。それらの治療に反応しない場合、肝臓の移植をする例もあります。

B型慢性肝炎

身体から完全に追い出せないので、ウイルスの活動を沈めて進行を食い止める治療を行います。
主な治療法は、インターフェロン(注射)と核酸アナログ製剤の服用です。
それぞれのメリット・デメリットは下記の通りです。
ちなみに現在では、拡散アナログ製剤がよく使われています。

  インターフェロン 拡散アナログ製剤
メリット 免疫を活発化させる作用がある 途中で投与がやめられる 耐性ウイルスが出ない 経口薬なので簡単に飲める 副作用が少ない
デメリット 注射で投与しなければならない 副作用が強い ジェノタイプによって有効性が異なる 途中で投与を止めるのが難しい 耐性ウイルスができる恐れがある 妊娠の希望がある女性には処方できない

どちらも高価なお薬ですが、医療費助成制度を利用すると、自己負担額を減らして治療を受けることが可能です。治療や経過観察だけでなく、必要だと判断した方には高度医療施設へご紹介します。

予防方法

B型肝炎ワクチンを接種すれば、抗体(HBs抗体)を得ることが可能です。 乳幼児期のうちに接種を3回受けることで、HBs抗体を得ることができます。注射で得た免疫は、約15年間続くとされています。
20代までに接種した場合でも、高い効果が得られるとされていますが、ワクチンの効果は年と共に落ちていきます。 ちなみに40歳を過ぎた方がワクチンを受けた場合、免疫獲得率は約80%になります。

B型肝炎に関しての注意事項

  • 肝炎が再燃する時期、肝臓がんの発症時期は予測できません。そのためキャリアの方でも絶対に外来で経過観察を行ってください。血液検査は3ヶ月に一度、超音波検査は半年に一度受けていただくことが標準的です。。また必要に応じて、CTやMRI、胃カメラ検査などを受ける必要があります。
  • B型肝炎の診断を受けた方は、周りへうつさないよう気を付けてお過ごしください。 また、ご家族の方やパートナーにも感染していないか、必ずチェックしてください。
  • B型肝炎ウイルスに感染していても、妊娠・出産はできます。ただし、その場合は念入りに準備を行う必要があります。妊娠を希望される方は、事前に産婦人科へ受診してください。

C型肝炎

C型肝炎C型肝炎ウイルス(HCV)に感染によって起こる肝臓の病気です。HCV感染すると、まず急性肝炎を発症します。短期間で治癒する患者様もいますが、約70%の方が無症状の持続感染者(不顕性感染)になり、慢性肝炎や肝硬変、肝臓がんへ移行していく恐れがあります。
慢性肝炎の患者様の約40%が、20年以上の時を経て「肝硬変」を引き起こします。肝硬変を患うと、1年に7%の確率で肝臓がんを発症するとされています。肝硬変は初期ですと、肝機能がなんとか保たれていて合併症もほとんど見られない「代償性肝硬変」になります。
しかし進行すると肝機能が悪くなり、合併症・症状を伴った「非代償性肝硬変」へ移行してしまいます。
C型肝炎ウイルスに感染しても、痛みなどはなく症状があっても風邪の症状と似ていることから、見逃されやすいので注意が必要です。知らず知らずのうちに、肝炎が進行してしまうケースが多々あります。
先述した「非代償性肝硬変」まで進行してから、症状が現れる方も少なくありません。
肝臓は自覚症状が少ないことを認識し、感染が疑われたら、精密な検査を受けることが大切です。
慢性肝炎や肝硬変、肝臓がんの原因の中で一番多い疾患でもありますが、医学の進歩により、C型肝炎はほとんどの場合、薬で治せるようになりました。早期発見し治療をしていくことが非常に重要です。
C型肝炎ウイルスは、基本的に血液を介して感染します。血液に直接触れる機会を持つ方はそう多くないため、ほとんどの方は日常生活で感染しません。

  • 覚せい剤の使用、ピアスの穴開け、タトゥーの施術などの時に、消毒されていない器具の使用または共有を行ってしまった
  • 感染した人と性交渉した
  • (稀ですが)母子感染

などによって感染します。

また輸血などの血液製剤は、現在厳格な品質管理を行っているため、ほとんど感染は起こりません。
しかし「1992年以前の輸血」「1994年以前のフィブリノゲン製剤」「1988年以前の血液凝固因子製剤」は、現在よりも不十分な品質管理を通して提供されていました。
そのため、先述した治療を受けた場合は「感染していない」と断言できません。ただし処置後に1年以上経過してからHCVの検査を受けた結果、陰性と判定された方は、感染していないと言えるのでご安心ください。

症状

多くのケースの場合、症状がなかったり、軽い症状だけで気づきにくいです。自覚症状も、倦怠感や疲れやすさ、食欲不振などで、ありふれた症状しかみられません。
病状が進行して肝硬変や肝臓がんにかかると、体重減少や腹水、黄疸、肝性脳症などの目立った症状が現れやすくなります。
C型慢性肝炎の発見のきっかけで一番多いのが、人間ドックや献血、健康診断での検査となります。
症状がなく健康だと思っている人が、検査を受けて初めて感染に気づくのです。
忙しいからといって定期検診を怠ると、症状にまったく気づかず、慢性肝炎が進行し肝硬変に近づきます。定期的にしっかりチェックしておきましょう。

検査

採血検査

採血で、まずC型肝炎ウイルスの抗体(HCV抗体)を測定していきます。健康診断でもよく行われている検査です。
一度も行ったことがない方はぜひ受けてください。
ただし、過去にC型肝炎を治癒しても陽性になってしまうケースもあります(自然治癒される方も10%程度います)。
そのためHCV抗体が陽性だった場合は、HCV核酸増幅検査(HCV-RNA定量検査)も受けていただき、C型肝炎ウイルスに持続感染しているか否かを確かめる必要があります。
さらに、C型肝炎ウイルスのタイプを判定する「セログループ・ゲノタイプ」を調べてから、治療方法を決めたり治療効果を予測したりしていきます。
B型肝炎と同じように、肝臓の炎症を調べるためにAST(GOT)やALT(GPT)、γGTP、ビリルビンなどの数値も調べます。加えて、肝臓の繊維化(硬くなる)の度合いを調べるために、ヒアルロン酸やⅣ型コラーゲン、M2BPGiなどの数値も測ります。
さらに肝臓がんが隠れている可能性もあるため、腫瘍マーカーであるAFP、PIVKAⅡを調べることもあります。
これらの項目を調べ、総合的に肝機能の状態を評価します。

画像検査(超音波検査(エコー)、CT、MRIなど

B型肝炎と同じように、腹部超音波検査などの検査を通して、肝臓の状態をチェックします。B型肝炎よりも発がんリスクが高く積極的にCTやMRIなどの検査を組み合わせて施行します。

エラストグラフィについて

B型肝炎と同様に、C型肝炎による慢性の炎症が進み肝硬変になりはじめると、肝臓が徐々に固くなってきます。
エラストグラフィ検査は肝臓の繊維化の度合い(どれくらい硬いのか)がスムーズに測定できる検査です。腹部超音波検査(エコー)と同じように、ベッドに横になるだけで検査を受けられます。
検査は短時間で終わります。繊維化の度合いをより正確に調べられるのは肝生検の方ですが、圧倒的に負担が少なく検査を受けることができます。
当院で採用している、ARIETTA 65LE LV は、肝線維化の評価を行うことができます。
肝硬度/肝線維化を推定するShear Wave Measurement(SWM)とReal-time Tissue Elastography(RTE)の2つの方式のエラストグラフィが搭載されて慢性肝炎から肝硬変まで肝線維化について評価することができます。

治療

医学の進歩により、飲み薬を2-3ヶ月飲むだけでほとんどの例でC型肝炎を治せるようになりました。
C型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスと違って、完全に排除できます。そのため、ウイルスを追い出したり肝機能の悪化を防いだりする治療を行います。
治療法は主に、インターフェロン療法とインターフェロンフリー療法があります。

インターフェロン療法

「インターフェロン」という薬を用いた治療法で、昔から行われている方法です。 インターフェロンの種類は多岐にわたり、他の薬と一緒に飲む方法も行われています。
しかし、インターフェロンは副作用が強く、C型肝炎ウイルスの排除においては効果が不十分だったため、問題点の多い治療法として扱われてきました。
現在では、下記のインターフェロンフリー療法が主流となっています。

インターフェロンフリー療法

2014年から取り入れられた、新しい治療法です。インターフェロンを用いずに、DAA(直接作用型抗ウィルス剤)を飲むだけというシンプルな方法で行われます。
DAA(直接作用型抗ウィルス剤)にはいくつか種類がありますが、現在最もメジャーな薬としては、グレカプレビル・ピブレンタスビル配合錠があり殆どの場合、選択します。
ウイルスのセログループ・ゲノタイプや肝炎の重症度、治療歴などに合った方法をお選びします。
DAA(直接作用型抗ウィルス剤)が開発されたことで、治りにくいとされていたC型肝炎は、完治できる疾患へ変わりました。
初回に治療を受けた場合、95%以上の方がウイルス排除(SVR)に成功したと報告されています。
副作用のリスクが極めて少なく、かつ外来で短期間の服用のみで治せるため、画期的な治療法として評価されています。
インターフェロン療法と比べて非常に楽な治療法と言えます。

肝庇護療法

インターフェロンフリー治療が出てきたことで、出番がほとんどなくなった治療法です。C型肝炎ウイルスを排除できない方に対して行われてきました。
ウルソデオキシコール酸の服用や、グリチルリチン配合剤の注射などで肝機能を保護していきます。
C型肝炎ウイルスの排除を目的とした治療法ではないので、一生続けていく必要があります。

C型肝炎の注意点

DAA(直接作用型抗ウィルス剤)の登場によって、C型肝炎は完治できる疾患となりました。
しかし、ウイルス排除後の肝がんが報告されております。治療によりウイルスの排除に成功すると肝がんのリスクは減りますが、慢性肝炎や肝硬変による肝臓へのダメージは消えません。
このダメージによって、肝臓がんが引き起こされます。
C型肝炎の治療が終了した後でも、肝臓がんを発症していないか定期的にチェックする必要があります。
当院では、治療後の定期検査に対応していますので、治療後もお気軽にご相談ください。

アルコール性肝炎

アルコール肝炎アルコール性肝炎とは、お酒を飲み続ける方に見られる疾患です。
普段からお酒をよく飲まれている方は、肝臓に脂肪が溜まりやすく、炎症が起こりやすくなります。
大量のお酒を飲んだ結果、重度のアルコール性肝炎を引き起こし、死に至るケースも少なくありません。
また治療を受けずにいると、肝硬変や肝がんに移行する恐れもあります。

症状

軽度のアルコール性脂肪肝でしたら、目立った症状はほとんど現れません。
あったとしても腹部の張りや疲れやすさ、食欲不振など目立たない症状ばかりで、見逃してしまいがちです。
進行してアルコール性肝炎を引き起こすと、食欲不振に加えて身体のだるさ、発熱、黄疸(おうだん)、右上腹部の鈍痛などが起こります。
さらに重症化すると、禁酒をしても肝臓の腫れがひかず、腎不全や肝性脳症、消化管出血といった重篤な合併症を引き起こすようになります。

検査

超音波(エコー)検査やCTなどの画像検査、血液検査を受けていただきます。画像検査を行うと、脂肪部分が白っぽく映ります。
アルコール性肝炎の方が血液検査を受けるとALT(GPT)とAST(GOT)の数値が50~100前後まで高くなっている傾向があり、y-GTPやコリンエステラーゼなどの数値も上昇しがちです。
ただし、血液検査で異常がなくても画像検査を行うと、脂肪肝が発見されるケースもあります。

治療

アルコール性肝炎はお酒によって引き起こされる疾患ですので、禁酒が必須になります。
アルコール依存症でお悩みの場合は、その治療が不可欠です。禁酒を行うと、約30%の方は肝臓が元に戻ったと言われています。
しかし約10%の方は悪化し、肝硬変へ移行してしまいます。食事や栄養状態が悪い場合は、カロリーやタンパク質、ビタミンを意識して摂りましょう。
アルコール依存が強く、アルコール依存症が疑われる場合には、依存症の治療が必要になります。精神科や心療内科へご紹介することもあります。

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