胃がんについて
胃がんは、男性、女性ともに部位別がん死亡数のトップ5に入っており、主ながんのひとつです。胃がんは、以前の日本では罹患者数や死亡率で胃がんは常に1位を占めていましたが、近年の胃カメラ検査による早期発見や治療法の進歩により、早期胃がんの段階で発見できれば心身への負担なく完治が期待できるようになってきています。
胃がんは、胃壁の内側にある粘膜に発生します。胃壁はいくつもの層に分かれており、最も内側に食物と接する粘膜層があり、その下には、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という構造になっています。胃がんは最も内側の粘膜層の細胞ががん化し、異常に増殖して発症します。
がんが、粘膜または粘膜下層までにとどまっているものを「早期胃がん」といい、筋層より深く達したものを「進行胃がん」といいます。がんの病変は次第に大きくなって下の層へ浸潤しながら広がっていき、リンパ系や血管を通じて遠隔臓器への転移を起こします。
早期の胃がんには症状がほとんどありません
胃がんは、早期に症状を起こすことはほとんどなく、ある程度進行しても明確な症状を起こさないことがあり、他の臓器やリンパ節などへの転移を起こしてはじめて発見されることも珍しくありません。
また、胃がんが進行して生じる自覚症状は、胃痛、胃の不快感、胸やけ、吐き気、食欲低下などであり、胃炎をはじめとした多くの消化器疾患と共通しており、特に強い症状を起こすというわけではありません。こうした症状は市販薬でも一時的に改善できますので、体調不良や体質だと誤解されて進行させてしまうこともあります。なお、進行した胃がんの細胞はもろくて壊れやすく、出血による黒いタール便などによって受診し、発見されることがあります。
胃がんを早期発見するためには、自覚症状が現れていない段階でご自分のリスクに合わせた頻度で受ける定期的な胃カメラ検査が不可欠です。
原因
胃がん発症の主な原因は、ピロリ菌感染です。日本で行われた統計調査では、胃がんの90%以上がピロリ菌を原因としていると指摘されています。また、WHO(世界保健機構)では、世界的に胃がんの原因の80%がピロリ菌感染によるものという報告がされています。
ピロリ菌感染に加えて、喫煙や過度の飲酒、過度の塩分摂取なども胃がん発症のリスク要因になっているとされています。
スキルス胃がんについて
スキルス胃がんは、胃がんの中でも進行が早く、恐いがんとして知られています。早期発見が難しく、増大スピードが早く、転移が起こりやすいため、治療が難しいとされます。スキルス胃がんは胃がんの約2-5%に発生します。早期発見が難しく、半分以上に転移をきたしているとされます。また、スキルス胃がんは比較的若年齢(20歳代)でも発症することも特徴です。
スキルス胃がんは、胃の粘膜の内側で増殖するため表面の粘膜に異常がないように観察され、胃カメラ検査でも早期発見が難しいのが実情です。胃カメラ検査の際に、空気やガスを入れても胃が膨らまないことや、胃のひだが部分的に腫大していたり、小さなびらんや白色の領域を認めることがありますので注意深く観察します。そのような所見を認めた際には、生検検査を施行し診断に至ることもあります。
スキルス胃がんの原因としてピロリ菌感染が関与していることがあり、予防としてピロリ菌の除菌が有効とされます。
検査・診断
胃がんを検査・診断するには、胃カメラ検査が最も重要です。
問診で症状などを詳しく伺って、胃がんをはじめとした上部消化管疾患が疑われる場合には、必要な検査を行って診断します。
血液検査
炎症の有無や状態、感染の有無、血液の状態、肝機能や腎機能などを調べます。胃がんの腫瘍マーカー検査も可能ですが、腫瘍マーカーはすでに胃がんの治療を受けている方が治療効果や再発の可能性を確かめるために受ける検査であり、胃がんの有無を調べる検査としては参考程度の使用となります。
胃カメラ検査
画像検査では、造影剤を使ったX線検査(バリウム検査)を行う医療機関もありますが、微細な病変の発見が困難であり、疑わしい病変があった場合も確定診断のためには改めて胃カメラ検査を受ける必要があります。X線検査(バリウム検査)は不快な検査ではありませんが、造影剤やX線によるリスクも考慮し、当院では最初から胃カメラ検査を受けるようお勧めしています。
胃カメラ検査は、微細な早期の胃がん発見も可能であり、検査中に採取した組織の病理検査を行うことで胃がんをはじめ、様々な疾患の確定診断が可能になります。口や鼻から極細の内視鏡スコープを挿入し、食道・胃。十二指腸の粘膜全域を詳細に確認します。特殊な波長の光を使った観察により、がんに特有の血管分布の確認や炎症の正確な評価なども可能になっており、微細な早期の胃がん発見に役立っています。胃カメラ検査は、早期胃がんの発見と確定診断が可能な唯一の検査であり、病変の大きさや場所、状態などを正確に把握できますので適切な治療方針を決めるためにも不可欠です。
CT検査
遠隔転移の有無や、リンパ節転移の有無を調べます。肺や肝といった転移しやすい臓器なども中心に造影剤を使用して診断していきます。ステージ分類および、治療法を決めるうえで非常に重要な検査となります。
病理検査
内視鏡スコープの先から鉗子などを出して病変組織の一部を採取し、それを顕微鏡などで確認し、確定診断を行います。胃カメラ検査や大腸カメラ検査では、検査中に組織採取が可能です。胃や大腸の粘膜には痛覚神経がないため痛みを感じることはありませんのでご安心ください。
治療
以前の日本では、がんの罹患者数や死亡率で胃がんは常に1位を占めていたことから、胃がんに関しては治療法や早期発見につながる検査法などの研究が進んでおり、早期に発見できれば心身への負担なく完治が期待できるようになってきています。
当院では、胃カメラ検査で胃がんが発見された場合に、ご希望の総合病院や連携している高度医療機関をご紹介しています。胃がんが発見されたら、がんの浸潤や転移などを詳細に調べるための腹部超音波(エコー)検査、造影CT検査などを行います。こうした検査の結果、浸潤や転移が確認できない早期胃がんと診断された場合には、心身への負担を最小限に抑えた胃カメラによる内視鏡的切除術(EMR・ESD)による手術を行います。
胃がんの治療法は、大きく分けて3つあります。内視鏡的治療、手術療法、化学療法(抗がん剤治療)です。
内視鏡的治療
リンパ節転移や血行による転移の可能性がない場合には、胃カメラによる内視鏡的切除術の適応となります。病変のサイズ、浸潤している深さ、潰瘍の有無、病理検査での組織形態などの評価も行った上で決定されます。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
輪になったスネアという高周波メスを病変にかけて切除する手法です。病変の下の粘膜下層に生理食塩水を注入して病変を浮かせてスネアをかけ、高周波を流しますので、下層に熱が伝わることがなく、安全な切除が可能です。2cm程度までのサイズの病変切除が可能ですが、1cmを超えると一括切除できずに取り残しを生じる可能性がありますので、1cm未満の病変に対して主に行われています。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
切除する範囲をマーキングし、周辺をまとめて高周波メスによる一括切除を行う手法です。EMRよりも大きな病変の切除が可能です。この場合も、生理食塩水で病変を浮かせてスネアをかけますので、安全な切除が可能です。
手術療法
胃がん手術は、原発巣を切除する胃切除が基本で、胃周囲のリンパ節を切除するリンパ節郭清をセットで行うことが多くあります。リンパ節郭清は、転移の可能性がある周りのあらかじめ決まった範囲のリンパ節を取り除きます。転移が疑われるリンパ節だけでなく、手術中には確認できない顕微鏡レベルのリンパへの転移を切除することを目的としています。仮にリンパ節に転移があってもリンパ節郭清により治癒が期待できます。
胃がん手術には、開腹手術と腹腔鏡手術があります。開腹手術は、お腹の上半分を切開するため術後の痛みが比較的大きいとされ日常生活への復帰に時間がかかります。近年、腹腔鏡手術とロボット手術が非常に進歩してきており、小さい傷で胃の摘出手術が安全にできるようになってきています。術後の痛みが少なく、患者様の回復スピードも早いです。
手術には3種類の胃の切除の仕方があります。全ての胃を切除する胃全摘術、胃の出口を含む3分の2程度を切除する幽門側胃切除術、胃の入り口側を切除する噴門側胃切除術です。手術後は、切除した胃と、周りのリンパ節を病理検査という顕微鏡検査で調べ、実際にがんが胃の壁のどの程度の深さまで進行しているか、周りのリンパ節に転移しているかどうかを確認して最終的なステージを決定します。
化学療法(抗がん剤治療)
いわゆる抗がん剤の治療です。お薬(点滴や内服)によりがんの増殖を抑え、がん細胞を死滅させる治療です。抗がん剤が、血液にはいって全身をめぐるため、拡がったがんに対しても効果が期待できます。
化学療法は、転移をきたしていて手術困難な場合や、再発してしまった症例で主に用いられます。また、補助化学療法として、手術と組み合わせて、手術の前や後に期間を決めて抗がん剤投与し、再発リスクを下げる目的に行うこともあります。
胃がん治療におけるピロリ菌除菌治療
ピロリ菌感染陽性の場合、胃がんの手術が終わってからピロリ菌の除菌治療を行います。除菌治療に成功することで再発リスクを低減できます。
ただし、除菌に成功しても感染経験のない方に比べると再発率は高く、定期的な経過観察が重要です。